雀荘訪問記

一昨日の晩であった。友人と山手線の片隅で酒を飲んでいると、今年何を成したか成したいか俺達は何を積み重ねどう生きるかといった酔った人間特有の胡乱な話題と相成った。近頃は終業即Mリーグ観戦の私は答えを持ち合わせておらず、解散してから少し落ち込んだ。多分今創作しているものがないから元気がないのだ。 帰宅して酔った頭でデイリーポータルZのメールマガジンを読んでいると、奇しくも同じような話題が出ている。 「~してみたい」とよくTwitterに書いています。過去のTwitterからそれらを抜き出したら380件ありました。 そこで私も検索してみた。  ショタが腰を振るオノマトペを「へこへこ」にした最初の人にインタビューしたい — @1010え1 (@osmnkih) January 13, 2021 こんなんしか出てこないもんな。 翌朝、布団の中で私はなおも考えていた。昨日私が友人に返した唯一の今年成したいことである。 雀荘に行くことだ。 麻雀の初心者向け講座に行きたい気持ちは前々からあって、下調べは済んでいる。HQ麻雀とかSS麻雀教室とか、近頃は初心者向けの麻雀講座の選択肢はかなり色々あるのだった。しかし今日だ。行くのは今日。そこで前々から注目していた雀荘の初心者向け講座が午後からあるのを見つけた。 ベルバード新橋店 ここだ。LINEの予約は2往復で済んで、名前さえ聞かれなかった。そんなんでいいのか。こうして私はバスに揺られて見知らぬ町へと向かっていった。 外観はただの商業ビルだったから店に入るまでが一番怯えていたが、中に入ってみると小綺麗な漫画喫茶のような、親しみやすい雰囲気だった。突然申し込んでおいて講師と一対一だったらどうしようと思っていたが、なんと初心者向け講座で5卓埋まった。つまり20人。しかも三分の一程度は女性だった。年齢層は平均取ったら20後半といったところか。フリーの卓でも若い女性がばしばし打っていた。初心者・女性歓迎の雀荘だという事前情報を差っ引いてもさすがに驚いた。麻雀流行っているって本当だったのか。 私はというと、全く麻雀がわからないが友達が打つので挑戦してみたいという大学生のお嬢さん、上品で朗らかなおばさま、分厚い付け爪つけた社会人のねーちゃんの三人と同卓だった。おばさまの応援するチーム・赤坂ドリブンズはつい先週まで絶不調でダントツ最下位だったが、今週好調を取り戻して現在4位まで浮上した。お祝いの言葉を述べて雷電のファンだと告げたら「まだこれからよ!」と励まされた。雷電はここしばらく最下位からブービーを彷徨っている。 ちょっと雀卓の使い方を教えてもらった後はいきなり実践だった。いきなり卓に放り込まれてしまったお嬢さんがこの日で麻雀を嫌いにならなかったならいいのだが。私は実はその方がありがたかった。まさしく雀卓の使い方だけ教わりたかったのだ。しかし難しいことは何もなかった。自動配牌卓が全部やってくれて、手積みもサイコロも必要ない。点数計算もカンペがあるし、点棒の払い方もややこしいこと言われない。半荘二回弱打ったが手牌も悪くなく、三萬単騎の七対子と立直平和ドラ1という気に入りの役を2つ和了れて満足した。和了りが出るたびに拍手が湧き、なんとも初心者らしい和やかな卓であった。 拍子抜けしたが、帰り際に社会人のねーちゃんが「疲れたんで、タバコ吸って帰ります」と言って、おばさまが「あたしも」と言ったところだけはイメージの中の雀荘っぽかった。 そういうことで、私の雀荘デビューは終わった。楽しかった。 しかし残るのは俺達は何を積み重ねどう生きるかという疑問である。一体この趣味はどこに行くんだ。どこを目指せばいいんだ。実のところあまりに呆気なくて、オンライン麻雀とそう変わらないという印象さえあったのだ。趣味の友人ができるといいのか。雀荘が開催するトーナメントで優勝できるといいのか。わからない……。 雀荘に行くことには成功したが、成すべきことはますますわからなくなった。雀荘よ、教えてくれ。 わかるまでもう少しいろんな雀荘に足を運んでみるつもりだ。


「猫のいる町に帰りたい」執筆後の散文

本編 私は2016年の7月にマネージャーに就任したんですけど始めたばかりの頃に引けなかったラビチャがメルドリでした。それからメルドリはピックアップがないので3年引けなくて、ずっとメルドリが欲しかった……。3年後の指名チケット2枚で二人揃えてようやく手に入れました。 それが今や配布ですか。配布って言うのか?おかげさまで所持率が上がって主題に据えられたのでいいんですけど。 メルドリの話をやります、って言った後、人に「我が道を行ってますね」って言われて最高でした。同人道において我が道を行くことほどいいことありますか。 今探したらメルドリ引いた半年くらい後のツイートあった。 メルドリに出てくるモモが拾った猫、確かにユキの口振りからすると同居時代の出来事っぽいけど同居時代にモモがユキ以外の動物拾うの解釈違いだな — @1010え1 (@osmnkih) February 25, 2020 持ってない頃からずっとこれを考えていたので自分で解釈違いに決着を付けられてよかったです。とにかくこの辺は自分が納得できることを第一に書いた。あとユキと猫の間の関係も絶対大事にしたかった。猫が可愛くなければ埋めてもしょうがない、とは私の語りに付き合っていた人の談です。仰る通り。 Re:valeが猫の死体を探すミステリを書きたいとずっと思っております。20210414 ブログでもやりたいって言ってんな。 でもこのブログ記事を書いた時点ではまだ書けると思ってなくて、突然「あのラビチャどう読んだって埋めてんのユキじゃん!!!」って天啓があったので書き始めました。ファイルのプロパティによると5月11日ですね。 猫を埋める推しカプの話なんてオタクは皆書きたいだろ。 ラビチャのネタを入れるのが大好きなのでたくさん入れられて嬉しい。この原作砂漠の時代にも俺達にはラビチャがあることを叫べてよかったな。 はっきり入ってるのはリハ本番、お仕事、雪まつり、Xmas magicかな(追記:RabbiTube並べるの忘れてた!あんなに堂々と入ってるのに)。最近出たラビチャとして夏のデート対決を入れられたのは僥倖でした。ラビチャを祝福する一番の方法だと思っているので。 あとは何かあったかな。日常とシルスカは息するように入れるので特に入れたという意識はない……。なんならラビチャだったのか自分の妄想だったのかも危ういが……。 ???モモがユキに「作戦会議しよう」っつって人脈分けた話って私の妄想でしたっけ? — @1010え1 (@osmnkih) September 29, 2021 これこれ。一回アーコロジーの祭日でも同じこと書いてるから多分妄想だと思う。一回書いたことがあるから公式だった気がしてるのか。認知がやばいね。 ラスト、最初はユキとモモの会話だけで終わる予定だったのですが、いまいち締まらずに気が乗りませんでした。7月頃からずっと苦戦していた理由の一つ。だから前々から使いたいと思っていた要素を使って修正できた時は嬉しかった。若干のマジックリアリズム感といいますか。原作のアイドリッシュセブンでも、アイドルを巡るリアルな描写と突然出てくる心霊現象のリアリティラインのギャップが面白いと思っているので。 ちなみに苦戦した理由はもう一つあり、倒叙の調整が大変だったから。倒叙どうでしたかね。ユキ視点にすること、ミステリ調にすることは決めていたので倒叙になるのは必然で、いくつか倒叙物も参考用に読んだりしたけど、書いているうちに倒叙要素は添える程度でいいように感じてきたので、倒叙要素が読後感を邪魔していないといいんですが。 ラストシーンも倒叙の調整もしっかり固まったのは8月の終わり頃で、オンリーに申し込んでから本当によく書けたので、成り行き上主催者の方には感謝しています。 アーコロジーでも顕著だけど、ユキの一人称を使う時は地の文に詩的な表現を混ぜるように少し気をつけてる。ユキ自身の喋り方に寄せるよりそっちのが大事にしてるかも。 あと気に入っているところは、猫の話なのに犬という単語が二回出てくるところ。贔屓はよくないと思って。 まあとにかく長い作品を書くのは苦手なので、最後まで書けてよかったです。これ以上長さだと紫陽花で10万字書いた時の一作だけだな。タイトルは「海が恋う町」でした。町の話が好きなんだと思います。アイドリッシュセブン二次創作の一本目も引っ越しの話だったね。


小説が翻訳される過程で失うもの

「文体の舵をとれ ル=グウィンの小説教室」 これを友達が読んでいて面白そうだったので衝動的に買って読んだのだが、以下はその内容の直接の感想ではない。 昔からネイティブでない言語において詩的感覚を含めて文学を楽しめるのかということに興味があったので、それに近いことを考えた。今回はその逆で、言語側が翻訳された時、文体による詩的感覚が残るのかという問題だ。 例えば第1章の冒頭では以下のような文章が引用・翻訳されている。 She slipped swift as a silver fish through the slapping gurgle of sea-waves. 白波(しらなみ)ざわめく潮海(しおうみ)のさなかの白銀(しろがね)の魚さながらすいすい進む淑女さ 見て分かる通り原文は”S”の韻が踏まれているので、訳でも「し」で韻が踏まれている。実際の翻訳小説の訳文ではないが、正直無理がある。「潮海」はそこまで一般的な単語ではないし、「白銀」は「はくぎん」と読む方が先だろう。アルファベットは表音文字で漢字は表意文字だから時には読みを示す必要がある。ふりがなを振ればいいだろうという主張もあるだろうが、ふりがながある文章とふりがながない文章では与える印象が違うのは明らかだと思う。日本語の中でさえそうだ。 当然だけど、言語の構造なんて同じじゃない。時制の章ではもっと明らかで、良くない例文として出ている現在時制と過去時制が入り混じった文章が、日本語に訳すと違和感がない文章になってしまっており、訳者自身がそれを指摘している。 日本語と英語では品詞も共通していない。日本語にはセミコロンも存在しない。英語を勉強し始めた時は誰でも過去完了ってなんやねんと思ったはずだ。 名詞や動詞は日本語と英語で同じじゃないか、視点の問題はどんな小説にも存在するじゃないかという反論もあるだろうが、それは人に物や物語を伝えるという目的の必然性から収束しているだけであって、動詞のない言語や視点が分類できない実験的な小説だって私が知らないだけで存在してもおかしくない。 翻訳された小説とそうではない小説において固有名詞を置き換えて並べらたら、見分けってつくのだろうか。本文では時制を固定することが海外文芸風の練習になると述べられている。時制が鍵になるかはよくわからないが、確かに海外文芸風の文章ってある。その存在自体が、小説の翻訳の普遍的な難しさを表している気がする。 そう考えると、翻訳された小説が伝えられるのは根本的にはストーリーだけなのかもしれないなと思う。勿論それ以外のものをなるべく伝えようとするのが翻訳者の努力だと思うけれど、その努力も含めて、それは翻訳者の技量を通した文章でしかない。ある言語が死んだ時、その言語で作られた文学も一緒に死ぬのだな。


始めよう!麻雀!

最近人に「麻雀やりましょうよ~~~」って言うと優しい人が「どこから始めたらいいですか?」って訊いてくれるから麻雀を勧めます。 Q. とりあえず何から始めればいいの? 雀魂をダウンロードしよう。ブラウザでもできます。 Q. ルール難しいんでしょ? 確かに難しい。私もいまだに点数計算ができません。逆に言うと点数計算できなくても楽しく遊べるとも言える。できなくてもいいんです。 一番基本的なルールは簡単だから!ちょっとだけだから!雀魂には麻雀のチュートリアルがあるからそれを見てみたらいいから! ルールはわからんでもいいのですが、戦術を覚えだすと大変。守備を覚える辺りから難しくなってくる。その時はこれを読もう。 3ヵ月で強者と戦えるようになる 麻雀「超コスパ」上達法 Q. 役っていうのを覚えなきゃいけないんじゃないの? 頻出する役は多くないからそんなに覚えなくてもいいです。 とりあえず最初はリーチと役牌覚えれば大丈夫。 Q. とりあえず試合を見てみたいんだけど…… Mリーグ見よう! 10/4から2021シーズン開幕です!AbemaTVで見れます! うん?YouTubeとかAmazonPrimeで見れないのか? ……見れない……。切り抜きならあるから……それでもよければ……。 これは名物実況者の日吉プロ。 Mリーグの何がいいかと言うと、人数が少ないことだと思う。8チーム4人で個性的な32人です。 麻雀プロって麻雀の団体に所属さえしていれば名乗れるので、云千人いるらしい。 Q. フーン…… 紹介します!!!!! 黒沢咲(TEAM RAIDEN / 雷電) 通称セレブ。とにかく好形で高い打点を狙う打ち筋から。 日本プロ麻雀連盟(一番大きい麻雀団体)の最高峰リーグで戦う女性。チームの稼ぎ頭で人を感動させる名局を数々生み出す。 とにかく飯を食うのが好き。 スッタン聴牌った時に頷くのがかっこよすぎる……。 小林剛(U-NEXT Pirates) 通称船長。U-NEXT Piratesのリーダーなので。 黒沢プロとは真逆で低い打点でも素早く和了って人の和了りを潰すスタイル。
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記憶の固執

最近休日が何しているのかよくわからぬ間に溶けており怖いので何に何分使ったのか記録をつけました。 仕事とおべんきょー 110+60裁量労働制のえらすぎる人間のため。退勤打刻忘れたかも。休みの日が一番仕事が捗るので、毎日休みだといいのになと思います。 買い物 60スーパーに買い出し行っただけなのになんでこんなに時間がかかっているんだ。なんだか私は最近外出もしないし買い物もしないので、スーパーに行くのが一大行事になっているかもしれない。今日は良さげな胡麻ダレを買ったので、近い内に食します。 めし 20+60+60作ったもの:簡易ハヤシライス、鮭のホイル焼き鮭のホイル焼きって成功した試しがないので簡単料理みたいに言われるのは納得がいかない。いつもアルミホイルが破れる。今日も。 ひるね 30+30基準の睡眠時間に届いていなかったため正当な昼寝 読書 30麻雀技術何切るドリルを最後まで解き終わった。手役(特に三色)が絡むと途端に不正解になりウケた。平和損保、大好き! 創作 1502000字弱しか進んでいないのですが!?5分に一回文字数をカウントしているので最近進捗が宜しくない自覚はあったがこのように対時間効率として突きつけられると到底直視できる値ではない。150分集中してこの数字ですからね、言っておきますけど。でも全体が30000いかないと思うと大事な2000だ。そう考えよう。20Pの漫画だったら1枚描いてることになるんだから。凄いことよ。 麻雀 60+60三麻 (1-0-1)、四麻 (0-1-1-0)最近三麻が雀豪に上がった。やっている人が少ないのも影響しているかも知れないけど、向いてるかも。明らかに三麻の方が和了率の成績がいい。四麻は雀傑1と2の間でじりじりしています。多面待ちは結局覚えきれてない。勉強して半年にしては悪くない成果なのではないでしょうか?どう?本当に周りにやっている人がいないからよくわからない。 ゲーム 130大逆転裁判やってます。王道ながらも奥深いストーリー、ユーモアに溢れるテキスト、本当に最高だぜ。謎解きも今のところは順調!加えて最近Baba Is Youというパズルゲームにちょっと手を出しました。でも難しくてすぐ攻略情報を頼ってしまう。La-Mulanaも全然進められずに終わっているし、インディーズじゃ駄目なのかよ、と思うと自分がエセ・パズルゲーム好きだということを突きつけられるようで落ち込む。 筋トレ 30二ヶ月のダイエットの進捗ですが-7%くらいは戻しました。だから言ったじゃん。簡単なんだからこんなの。筋トレは正直やってもやらなくてもあんまり体重には影響してこないっぽいが突然運動神に運動しなかった罰を与えられるのを恐れて適宜やらせていただいております。本当はもう少し真面目に有酸素運動をした方がいいらしい。有酸素運動は疲れる割に筋肉も壊れるし、やだなぁ……。 フロ 30フロ 数字にしてみたら普通に麻雀と逆転裁判と創作に時間使っていました。でも創作は連休のうち今日ようやく手を付けたし麻雀も昨日一昨日はそこまで打ってなかったな……。記録したことによってせめて今日だけでもメリハリのある一日を送ろうという意識が働いたのでしょう。謂わばレコーディング・生活。 (24-7)*60 – (170+60+140+60+30+150+120+130+30+30) = 100 次元の狭間に溶けている時間は100分でした。案外長い。どこに消えちゃったんだ。


犬身感想

人が犬に例えられる時、それは多くの場合、飼い主に例えられる特定の相手への献身・愛情深さ・忠誠の象徴だったりする。しかし犬身において犬になった主人公、フサと飼い主の梓の関係は「犬に例えられる人」のそれとははっきりと異なる。フサは「犬に例えられる人」ではなく犬そのものだからだ。一番それがはっきりと記されたシーンは下記だ。 「この犬がわたしのいちばん信頼している家族ですからね」フサが顔を上げて梓に向かってにっこり微笑んだ時、朱尾が梓に尋ねた。「どういう家族ですか、イメージとしては? 弟? 息子? それとも夫?」朱尾はわざと凡庸なことを言っているのかとフサは疑ったのだが、梓も苦笑に近い笑いを漏らした。「人間の家族に当て嵌めて考えたことはないですね。犬は犬ですから」 この台詞だけなら簡単だ。朱尾が尋ねているのは本当に凡庸な質問だし、梓の答えも凡庸と言える。けれどもこの凡庸な台詞こそがこの小説のルールで、覆ることのないものだ。 私は「聖なるズー」の作者との対談(冒頭部)から「犬身」を知ったので、フサが犬になった後には、犬の性欲に身を焦がし苦悩するのではないかと思って身構えていた。そうでなければ朱尾との契約における追加条項が機能しないからだ。しかし、梓にとってフサは「夫」でも「兄」でもない。描写こそまるで性描写のように艶やかであるものの、フサの愛情は最後まで自覚としてはプラトニックなものとして描かれている。であれば梓が性から隔離された清楚な人物かというとそれは違い、むしろ「人の性(近親相姦)」と「犬の本能的な勃起」の対比によって「犬は犬ですから」が強調されている。 最も「犬は犬ですから」を感じたのは、小説を読み終わってからだった。ストーリー全体を振り返ってみると、梓の転身は朱尾や未澄の、つまり傍にいた「人間」の影響であって、フサは何の役にも立っていないことに気が付く。最後に彬に体当たりしたくらいが精々だ。 犬に成り立てのフサは、人の言葉で梓の力になれればよかったと夢想するが、親友の未澄にさえ踏み込ませなかった梓のプライベートな領域に出会ったばかりの房惠が力になれるはずなどなく、それは房惠の奢りに過ぎない。フサは犬であったから梓の物語の全てに立ち会い、犬だからこそ傍観者の視点でそこに立っていただけだ。フサと梓の絆は犬身のストーリーを進行する原動力では決してない。フサは犬らしく飼い主を舐めていただけだ。その妙が振り返ると素晴らしく「犬は犬ですから」というルールに忠実に思える。 さらにストーリーを振り返ると、「犬であるフサ」は勿論、「房惠が犬に転じたこと」も梓の物語にそよ風さえ巻き起こさないのが面白い。たまにフサは自分の仕草が人間らしくはなかったかと省みるが、梓にしてみればフサのそういった仕草が人のように見えるのは「飼主馬鹿と笑われるかも知れませんけど」といった程度の話で、まさかフサが人間の変化した姿だとは疑いもしない。梓が落ち込んだ時など一度はキーボードを叩いてまで言葉を発しようとしてしまうフサだが、結局梓が見る前に文字は消去され、何事もなく終わる。「犬は犬ですから」というルールに反するからだ。 本来そのルールに従うなら、房惠は犬になることができない。それは犬身が唯一破らなければいけないルール違反だ。そこで朱尾(メフィストフェレス)が登場する。間テキスト性を借りて、ルールの外にいるものによって一度だけの違反を許すのだ。朱尾の愛嬌は様々な過去の作品に登場する悪魔を彷彿とさせるが、犬身はファウストではないので、最終的に犬は超常的存在にも勝利する。 人が犬に変身する物語。そう聞くと、なんだか大層な物語が始まるような気がしてしまう。しかし人が犬になるということは、飼い主の日常に寄り添うということだし、飼い主の人生を大きく変えることはできないということでもある。犬身は徹頭徹尾そのことを描いた小説だった。 ただ、犬身は当然のように犬と飼い主の間に性的交渉は存在し得ないという前提に基づいたものが物語だ。聖なるズー「以降」の犬身も読んでみたいと思ってしまうのは、現代のわがままだろうか。


連休明けの5月。空腹でふらふらになりながら、数ヶ月ぶりに電車に乗って二駅先の病院に向かった。子供が大人になったらいつか終わると思っている行事No.1、健康診断を受けるためだ。 4月末までに希望日時を出せばいいはずだったのに勝手に総務で予約を入れられて、私の受診時間は午後の三時だった。この健康診断は途中で採血があるので、受診の十時間前から水とお茶以外なにも口に入れられないのだ。去年その注意書きを一切見ずに受付で恥を欠いた身としては今度こそ模範的受診者にならなくてはならない。私は文字通り腹をくくって前日からの二十時間の断食を受け入れたのだった。 昼過ぎの診察はスムーズに進んでいるようだった。胸部X線を終えて、去年同様に身長・体重計測へ進む。座高ってなんだったんだろうな。スリッパを脱いで計測台に登る。頭の上からレバーが落ちてきて、がちょんと無遠慮に頭をはたき返っていく。結構です、と看護婦さんが計測値をこちらに見せてくれる。 「なにか最近の計測と変わったところなどございませんかー?」 小学生じゃないんだから今更身長なんて変わったところがございますわけないだろ、そう思って数値に目をやった私は肝の冷える思いをすることになる。 体重が増えている。 「まぁ……そんなに……特に変わったところはないですね……?」 びっくりしすぎて嘘をついてしまった。いやここで「体重が増えてます!」って主張してもしかたがないんだけれども。主張した方がよかったのか? それからは体重のことで頭がいっぱいだった。検診で「不整脈の気がある。去年もそう言ったが覚えてないのか」みたいに詰られた気がするがそんなことはどうでもいい。いっそその話を遮って「やっぱり運動ってした方がいいですかね?」と聞きたかったくらいだ。聞かなかった。しろと言われるに決まっているから。 体重。 自慢じゃないが、いや、これは一種のパーソナリティーを形成していたと失った今になって気がついているが、私は生まれてこの方標準体重をオーバーしたことが一度もなかった。子供の頃から高校まで小柄で、所謂ガリチビの勉強ができるガキだったのだが、大学で外の仕事において自分が何の役にも立たないことに打ちひしがれて筋トレを始め(この顛末について書くと9本くらいのシリーズ記事になる)、そこそこに筋肉をつけて以来ぴったり標準体重のままこの歳まで生きてきた。 それが体重増加。10%。方程式を解かないでください。 BMIこそ標準に収まっているが適正体重からは誤差で済まされない範囲でオーバーしている。ショックだった。なんとなく自分の体重って永遠にこのままだと思っていた。外の仕事と言っても車に乗ってばかりで大して動いていないのだから、在宅デスクワークになったところで体重なんて増えないだろうと思っていた。 あまりにもショックだったため、私は2週間ほどこの数値のことは考えないようにしていた。ようやく鏡を見る気になったのは友人と雑談の折にその話題が出たからだ。正直鏡を直視するまで、自分の体重が本当に増えたとは思えなかった。それを確認するために鏡を見たのだ。 ……いや、太っている!さらにショックだったのは自分が太った(さっきまで体重増加って言って濁していたのに直接的表現を行ってしまった)ことに一切気が付かなかったことだった。顎の下と、あと腹に少々。顎ってなに!?そこにつくのか!?人間が太ったらもっとわかりやすく腹が横に伸びるとか太腿が太くなるのかと思っていた。確かにマイナンバーカードのために撮った写真が笑えるほどぶちゃいくだなとは思っていたが。なんでそんなところにつくんだ。全然わからん。太りビギナーだから。 あとから別の友人にも「正直顔の周りが太っているとは思っていた」と指摘された。言えよ。いや、言われても否定した気がする。なんなら指摘された後も否定した。カメラのアングルのせいもあるって言った。 もーむかついた。絶対に標準体重に戻す。BMIはまだ適正だとかそういう問題ではない。これは矜持の問題だ。己がどのように生きるか。どの体重で生きるかは私が決める。見ておけよお前達。こんなの一瞬だから。一瞬。3日で落とすから。 正直少し楽しみでもあった。自分のステータスが数値化されるのは結構好きなのだ。人生で一度しかやらないからな。ダイエットなんて。あすけんっていうアプリが流行ってるんでしょ? 早速その日から筋トレを始め、体重計を買った。アプリ連携できて毎日の記録が簡単なタイプにした。ガジェット好きなのでその点も嬉しい。数日後、届いて早速封を開け、わくわくしながら真新しいライトブルーの体重計に乗る。その数値。 標準体重から12%増だった。あの日は空腹だったから、下振れしていたんだね。


拝啓 バティミッションBOND様

貴方が世に出た日から四ヶ月が過ぎ、早くも日中は暑さが苦しくなる季節となってきました。お元気にお過ごしのことと思います。本日筆を取らせていただいたのは他でもありません。貴方に謝らなければならないことがあるからです。 つい先日のこと、友人と話す機会があり、最近遊び終わったゲームの話題として貴方の名前を挙げさせていただきました。二、三週間程前でしょうか。私はMission #18を終え、バディストーリーの回収がいくつか終わっておらず、まだメインストーリーが続いていることは認識していたものの、それはおまけ程度のものだろうと高をくくり、貴方の実力の大凡は見せていただいたと思っておりました。 本日、気が向いてAnother #18及び全てのストーリーを拝読させていただき、その認識が誤っていたことを知り、横面を叩かれたような思いです。貴方を侮っていた。いつも物語は終わりまでが肝要と言っているにも関わらず、一度始まった物語に対するこの始末。深く反省しています。ここにお詫びさせてください。 貴方を知ったきっかけはあまり覚えていません。多分SNSか何かでお見かけしたのでしょう。昨年に逆転裁判とダンガンロンパを遊んだ身としましては、現代の推理ゲームとして貴方の登場に心惹かれ、体験版をダウンロードさせていただきました。 私が体験版で素晴らしいと思ったのは、推理ゲームの要素ではなくてテキストの丁寧さでした。ルーク君もアーロン君も決して個性的なキャラクターではありません。少年漫画の王道を行く、真っ直ぐな青年達かと存じます。しかしその語り口に単調さはなく、ちょっとしたジョーク、些細な台詞に見える思いやりなどが二人の生き生きとした捜査を目の前に描き出しました。私は結局の所、推理ゲームとしてではなく、「この物語の続きが知りたい」という物語に対して現れる最も原始的な欲求に導かれて購入を決めました。今思えば、それが最後まで続く私の過誤の元ですが、今はまだ筆を進めることとします。 少し物語の外の話をしましょう。私のようにテキストを愛するものにとって、潜入パートは手間に思ってしまいましたが、このために作られた3Dモデルはとても愛らしかったです。ただ、せっかく知性を張り巡らせて獲得したヒーローゲージが減るアクションパートは興ざめでした。きっと貴方の偉大な先輩たるダンガンロンパさんを意識したのでしょうね。 また、読むものにストレスを感じさせない立派なUIにも感心いたしました。物語が優れていようとも、やはりそのような点に気配りされないゲームは、物語を伝える気があるのだろうかと眉をしかめてしまうものです。 さて物語の話に戻りましょう。Mission #4からはモクマさん、チェズレイ氏が加わり、途端に画面が賑やかになりました。お二人の性格も相まって、この辺りから急激に男色のお約束の気が強くなってきて私には少々刺激が強く、しばらくお休みをいただきました。未来ある中学生女子が貴方をプレイして、いろんなものに目覚めるきっかけとなるところを想像しました。悪い人ですね。 しかし、今ではモクマさんのこともチェズレイ氏のことも大好きです。それは彼らがルーク君と歩みを続けるにつれて、二人が単なる記号ではなくなったという極めて自然な物語の効果なのでしょうね。特に、ルーク君が最後までモクマさんの力になれなかったにも関わらず、それが決して二人の不仲を示すものではないという描写には感服致しました。そのような状況は世界にありふれていると思えるからです。それが食という個人的にも興味深い小道具と共に描かれているのも絶妙な選択かと思います。チェズレイ氏については、最初はこんな人を好きになるのはベタすぎて恥ずかしいとさえ思っていましたが、やはり彼が情念の男として描かれるとその情念が決して蔑ろにされないように応援せざるを得ませんでした。顔の美しい彼がBONDのメンバーと共に暮らすことでその顔に柔らかい表情を湛えるようになった、そのことにルーク君と同じように私も喜びを覚えたのです。 主要な四人の他にも、若いながらショーマンとしてのプロフェッショナルな意識を持ち、そうでありながらもこちらに弱みを見せてくれる可愛いところもあるスイさん、そのスイさんが密かに憧れを抱く切れ者の女警察官ナデシコさんと、貴方の物語はまさに王道たる面白さで私を惹きつけました。だからこそ、シキ君の死に、私は素直にがっかりしてしまいました。これだけ魅力的な登場人物を並べて殺す時には舞台装置か、と。彼が5人目のBONDになることは何故叶わなかったのか、と。シキ君の生前の描写はかなり限られており、サイドエピソードさえもありません。普段推理小説を読む私ならそこに違和感を覚えるべきだったにも関わらず、すっかり物語に魅了した私はそこに作為があることを疑うことさえしませんでした。 立ち止まって推理に戻るチャンスは何度でもあったはずです。例えばシキ君の服装。私はあれが和風のものであることにはかなり違和感を覚えました。貴方の中で和風のテイストはマイカに専有させているもので、シキ君がそれを犯す必要性がないからです。彼の出自を知れば、あれは当然の選択でしたね。また、Mission #18自体にももっと違和感を覚えるべきでした。ここまで少年漫画的王道を貫いてきた貴方が、エドワードに対してあの終わり方で満足するはずがないからです。そうでなければ、サイドエピソードに彼の章があることの意味がなくなってしまう。 結局の所、最後まで貴方を侮っていたことが推理読みとしての私の敗因だと言わざるを得ません。小説の途中で脱落した人物を疑え。推理の基本中の基本です。豊かなテキストや男色の気に押されて、私は貴方の評価を誤っていました。勿論、いくらどんでん返しが好きな私とは言え、最後にしてやられたからと言って全てが推理ゲームとして一級品と断言する訳にはいきません。貴方の魅力はやはり王道を丁寧に描くストーリーにあるとは思います。しかしその上で、貴方にそんなつもりはなかったでしょうが、貴方はその王道とされる認識さえも利用したと言えるのです。お見事です。 Another #18を開くために、バディエピソードは勿論、サイドエピソードも全て開いてしまいました。もうここに新たな物語は生まれない。コンスーマーゲームの宿命ですけどね。今はただ、それが寂しい。そろそろ筆を置くことにします。今後も貴方の物語が多くの人に愛されることを願って。 敬具


Palette1202ビルドログ

Palette1202のビルドログがなかったので拙いながら書いてみます。 全体的にハンダ付けの箇所も多くなくスルーホールのダイオードも使えるので、難易度はそこまで高くないと思います。自作キーボードを触ったことのない絵描きでもチャレンジできるといいなと思って書きました。 可能なら遊舎工房の工作室を使わせてもらうと、工具も借りられるし、いざとなったらサポートもお願いできるのでいいかも。遊舎工房のレンタルボックスからも購入できるのでここに行けばパーツ含めて全部揃います。 大体やることは一緒なので他のキーボードのビルドログ(例:Mint60)を読んでおくとイメージ掴みやすいと思います。 ※ 執筆時点の情報なのでBOOTHの販売情報など若干古いと思います。 更新履歴 22/02/15 ロータリーエンコーダーについてリンク先追加。


さっきまで麻雀本を読んでいたので眠いよーッ……。今日が最終日なので頑張って書くか……。 本日の起床。 今日はずっと仕事のブログを書いていた。全然文量ない記事なのに調べ物や検証用のコード書いたりする作業があるため全然終わらない。楽しいからいいけど……。 犬身が届き船長の本を注文した。本を好きな時に買うくらいしか給与の使い方なし。そんなことないな。キーボード買ってたし雀魂に課金してた。 物理的な本というのは、正規の値段を払う気があれば本当に入手しやすいものになったんだなと思う。物流に乗って、配送料が無料になって、ポストに投函してもらえればいい訳だから。特に最後の部分が面白い。生鮮食品や精密機材だったらこうはいかない。本の中身に関係なく物理的には紙の束という同質なものだから扱いが同じでよく、紙の束がつっこまれるのにちょうどいい場所に突っ込まれている。中身のわからない嵩張るものだから恐らく盗難のリスクも低い。本ほど通販に適しているものもないんだな。 戦績 書いた日:29/31(↑) 文量:29979/(1000*30)=0.99(未達) 買った本:4(麻雀)+101(漫画)+6(他) 「麻雀」って言った回数:33回 やれたこと:!!!一次創作をちゃんと完成させた!!! やれていないこと:メギドの記事書く(まだ言い出してから一ヶ月経ってないからセーフ)、Palette完成させる 総評 なんだか今回はあっという間だった。文量も微妙に足りてないがまぁいいんじゃないか。ヤッター。なにも思いつかない日でも引き出しというか型があると書きやすいことがわかった。レシピとか。これは単純な文量の話ではなく書き出しやアイディアのきっかけとして。 あとはやはり麻雀を始めたのも書きやすかった要因の一つかも。始めたばかりの頃が一番刺激があるので。でも一応最近興味のある文学などについても書けたのでよかったです。