文学研究をしていたら動物種の違いがわからんぞーとなった。それから最近、一番好きな動物概念は刷り込みだったことを思い出してしまったので、鳥が足りんぞ!という気持ちで鳥の研究を始めます。 とりあえず、二次資料を、集めるー。SILVER SKYに登場する羽ばたいてる鳥の種類を同定することを目指します。 鳥を読む: 文化鳥類学のススメ 2023 細川 博昭 (著) 鳥と人間をめぐる思考: 環境文学と人類学の対話 2016 野田 研一 (著), 奥野 克巳 (著) 〈鳥〉の表現でたどる日本近代文学史―超級文学日本語の試み 2006 坂東(丸尾)実子
Category: 文学・批評
一生に一度の月感想
麻雀が登場する小説を集めている。amazonを駆け回りYahoo知恵袋を虱潰しているのだが、大抵は「阿佐田哲也」と答えられて終わりだったりする。そんな中で今一番アツいツイートはこれだ。 「日本麻雀SF小説集」というアンソロジーは組めないだろうか? と妄想してみた。収録作品、平井和正「星新一の内的宇宙」、豊田有恒「海底の月」。えーと、他に何かなかったかな? — 七月鏡一 (@JULY_MIRROR) June 13, 2021 この引用リツイートとリプライに挙げられる小説一覧の収穫が半端じゃない。「一生に一度の月」もそうやって発見した。このように役立つところを見るとちょっとはツイッター潰れるなという気持ちになったりもする。 「一生に一度の月 ショート・ショート傑作選」小松左京著 文字量を積み重ねたアマチュア創作はいいものだが、文字量を極限まで削ったプロフェッショナルショートショートもいいものだ。アイディアさえあれば自分にも書けるのではないかという錯覚を覚えさせてくれるから。バベルの図書館はある。 アポロ11号の月面着陸が中継される傍ら、その偉業を見届けるために集まったにも関わらず麻雀牌を広げ始めてしまうSF作家達。そして着陸の瞬間を他所に、海の底から化現する幻の役満・九蓮宝燈。麻雀牌にシンボルを重ねる小説といえば灘麻太郎プロの小説「牌の宿命 再会の中」(2007)があるが、牌にふった、中=再会、白=死、といったシンボルは灘プロの創作だと考えられる。一方の小松左京はさすがに小説のプロ。海底老月という麻雀役の中でも誰しも認める美しい役とアポロの着陸が重ねられている。九蓮宝燈がいかに誇り高き役満かという描写によって、麻雀を嗜まない読者にもこの小説の肝となる「月」と「運のツキ」の比喩は伝わる。しかしテクスト内で直接言及はないが、このアガりには中国麻雀に由来する一筒老月というローカル役(最後の手番で一筒をツモるとつく役)のイメージも重ねられている。さらにアガった後の「すごい! おまけに九筒がドラですよ」という投げっぱなしの一言にも、麻雀を知っている読者だけが「役満なんだからドラ3なんて関係ないだろ」とニヤリとさせられる。人類の誰もがブラウン管から見て認める月面着陸という成果と、麻雀とかいう中国語が飛び交う知らない人にはどうでもいいゲームの妙竹林な場面に興奮する大人達の対比。アポロ着陸の中継はとっくに終わっていた。 この部屋の中で行われるべきゲームは囲碁でもオセロでもなく、麻雀でなくてはならなかったことがわかる。夜と怠惰とエキゾチックの象徴たる麻雀。そういった文化の印象はMリーグ大時代の中いつまで生き残り続けることができるのだろうか。伊坂幸太郎の「砂漠」(2006)は大学生という限られた時間の中にまだ息づく麻雀文化を描写したが、それさえも大学生の娯楽などいくらでもあるこの現代においては歴史的記述になってしまうのかもしれない。 しかし、九蓮宝燈を和了った「私」は興奮の中でアームストロング船長にこう語りかけている。 人それぞれに、その時その時の感激の瞬間というものがあり、それは、その瞬間において、当人にとって最も重大なものであって、一方でもって、他方を否定することができないし、逆に人それぞれ固有の感激を通じて、わかりあう面があるはずだ、といった、いわれのない確信のようなものが、その時の興奮した気分の中にあった。――これが「現代」というものだ、といった確信が。 小説はまさにアポロが月面着陸した1969年当時に執筆されているが、この「現代」という言葉は現代でより一層真に迫る。『「予測」や「予見」を大きな要素とするSF』(本文より)の面目躍如といったところだ。そこで気がつく。煙草を吸っていなくても、明るく小綺麗な雀荘の中でも、海底で一筒をツモるその興奮に現代の私は共感することができる、と。
おい!ミステリオタクのパラノマサイト感想聞いてくれやありがとう
先にスペック書きます。パラノマサイト FILE23 本所七不思議媒体:Nintendo Switch™/Steam®/iOS/Androidお値段:2000円弱 つまり今メジャーな携帯ゲームは勿論パソコンも、スマホもどちらの機種でも遊べてミステリーADVがわからん人でもとりあえず買ってみよっかな?と思える価格であなたも君も万人に扉が開かれているということです。ちょうど土日を空ければ完全にクリアできるくらいのボリュームですので、金曜の夜に案内人とお話を始めれば宜しいかと。 舞台は昭和の墨田区でジャンルはまっすぐホラーミステリーADV。墨田区の七不思議にまつわる呪いの力を手に入れた人間たちによってデスゲームが展開されます。これは厳密に言うと特殊設定ミステリというやつ。現実世界から少し逸脱したルールがあってそれに沿って論理が展開されるミステリ。はいはいはい。講談社タイガね。いいじゃん。懐かしさがある年代設定で今流行りの特殊設定ミステリをやる感じね。 システムは普通のアドベンチャーゲームですがちょっとだけメタがある。これは「序盤のネタバレ」なので許してください。いい味のメタですね。アンチミステリ!マヤユタカ!アンチアドベンチャ! 感想その1。キャラがいい! じゃあ皆が気になるキャラクター達を紹介していきます。キャラクタ達は嬉しいことに全員タッグを組んで群像劇を展開します。そこまで強い探偵助手構造ではないので探偵助手アレルギの方も安心です。探偵はずっと君だ。 タッグ1!息子を殺されたマダムと外連味探偵!タッグ2!親友を殺された女子高生と霊感女子高生!タッグ3!思春期の娘がいるおっさん刑事と彼に憧れる犬ころ後輩刑事!!!ありがとうブロマンス! これね~設定だけ読んだら結構ミステリ典型だと思いますよ。外連味探偵はこうです。踊りだしそう。でも意外と心優しき常識人(比マダム)。マダムは最愛の息子を亡くして相当元気がないですが常識がないのでまれによく面白いこと言ってます。 霊感女子高生は線の細い美少女ではなくこうです。強キャです。 犬ころ後輩刑事はこう。唇が厚い造形なのかと思ったけど他のキャラもこういう口するし、製作者インタビューによるとおちょぼ口なんだそうです。かわい。 先にビジュアルと設定の意外性を出しましたが、そもそも台詞がよく生きていてね……。全員のこと好きになると思う。現存ミステリ作家でいうと米澤穂信あたりが近い。大体のエンディングでは主要キャラが死ぬので、君の力で登場人物達の生きていける未来を守れ。そのとき守れてよかったって思えるってすごいことよ。全体の物語は人情ものとシリアス調ですが効果的にユーモアが使われていて確実に逆転裁判の血を感じます。 感想その2。ミステリがいい! そして何よりミステリがいい!!! 温泉のような心地よい難易度ですね~私は詰まることはなかったですが~。こういうミステリヲタのどやは無視してくださって構わないですが~。ちゃんと考えたら結構誰でも解ける難易度です。ミステリADVに求めてられていることは難しさではなくロジックの正確性、つまり必要十分条件が満たされているということによる爽快感なんだよな。よくわかってるな。 感想その3。UIがいい! 最後に、UIがいい!やっぱり人に勧めるからにはUIがしっかりしててくれないとさぁ!いらんのよ!UIのひっかかりは!ひっかかりたいのは手がかりだけなのよ! ゲーム内説明がちょっとわかりにくいがルート回収はこのようにできます。明るい章だけ確認すればOK。 パラノマサイトは奇抜なゲームじゃない。名作ミステリADVに必要なのは必ずしもオリジナリティじゃない。ミステリというでかいジャンルが積み重ねてきたものへのリスペクト、そして初めましての人を受け入れるシステムと難易度なのよ。それがミステリオタクの称賛を生む。 明らかに世界の広がりを匂わせる世界観で、実際に続編の構想もあるようなので、わたくしにしては珍しく、こちら、買いですよ!と言っておきます。
麻雀本レビュー
麻雀本で棚が一つ埋まった記念にお気に入りの麻雀関連本をレビューします。 3ヵ月で強者と戦えるようになる 麻雀「超コスパ」上達法今amazon見たら4冊買ってました。人に配っているので。欲しい人いたら買ったげるから欲しいものリストのアドレス教えてください。ルールだけ覚えた初心者が読む戦術本にはこの本の他に平澤本や千羽本などがあって気になっているのですが、私は超コスパ本の刷り込みを受けているので金派です(こういう派閥(仮想)、受験の参考書っぽくて好き)。比較検討したいんだけど流石にもう対象者ではないので踏ん切りがつかなくて。 トッププロに聞いた 麻雀「読み」の神髄Mリーガーのずんたん本。手出しツモ切りなどの超上級戦術の威力について語る本。凄すぎるし特定の局面にフォーカスしているので私はこの本読んでもあんま強くなれんと思います。そういう構成の本は結構多いんですが、これは赤坂ドリブンズ担当の名広報・インタビュアー鈴木聡一郎の力によって、村上淳の凄すぎる技工と普段のずんたんのダメっぷり(聡一郎、ずんたんをコケにしすぎでは!?と思うが多分大丈夫です)がうまく対比されており、Mリーガーの魅力を発信する唯一無二の書籍になっていると思います。対局の動画と牌譜のリンクが別途noteにまとまっているのも参考資料厨ワタクシ大満足の処置です。 麻雀つれづれ日記 切った牌はもどらない女性Mリーガーアッキーナのエッセイ本。これは黒沢さんの異色書籍(小説)渚のリーチもそうですが、ずんたん本とは違って本人が筆を取っていることに強い意味がある本。文章がお上手ですね……。結構長いこと日記を綴る習慣があったらしい。納得だわ。情熱的な文章ではないのに表現の隅々にU-NEXT Piratesと麻雀への愛情が伝わってきてギャン泣きしました。今パラパラめくったらまたちょっと泣けたのでしばらく捲るのやめます。あとフォトエッセイとしたカドカワの企画も間口の広げ方が憎いくらいうめぇと思います。俺はフォトに興味がないので全部飛ばしましたけど……。 東大を出たけれどovertime麻雀漫画で一番好きなのはオバカミーコなんですけど最近の一般ウケする(は?オバカミーコも一般ウケするんですけど?)漫画としてこちらをオススメさせていただきます。「東大を出たけれど」という漫画の続きものなんだけど私はovertimeが特段好き。オバカミーコの血も引いてるし(勝手にそう主張しているだけ)。続けて読むとMリーグ前の雀荘・麻雀像とMリーグ以後の麻雀・麻雀プロ像と悲喜こもごもが見れていいんじゃないかと。はよ世間の声で眞白がMリーガーを目指す続編を出していただけませんかねぇ!?ちなみに主人公の名前が作者と同じなのでovertimeは無駄にドキドキさせられますが一応ちゃんとフィクションです。 Mリーグ観戦マニュアルMリーグ ほぼ毎日4コマなり追憶のMなり、様々な創作の元となっているMリーガー達なんですが、どの程度創作が入っているかって本当に注意して扱うべき事項だと個人的には思っている。この本、前半は選手の実際の打牌について解説しているんだけど、後半の何切るは土田浩翔の「創作」なんですよ。そんな創作の手法取って世に著作送り出せるの土田浩翔くらいしかいないって。この本はMリーガーの魅力に迫る本と見せかけて土田浩翔というプロ雀士に畏れを抱く本です。 ほとんど覚えてない牌姿でしたがあっきーな度100ポイントでした( ¯﹀¯ )✌️U-NEXTでも読めるよ🙆♀️ pic.twitter.com/7twNovG2Or — 瑞原 明奈 (@akn19mj) October 25, 2022 勘違いしているところも含めて本当に善きツイート(瑞原さんは土田さんのファンです)。これ取り上げられたMリーガー全員やってほしい……。好きな創作台詞を発表します。「咲にはそれが問題とは思えないわ」←黒沢さんの一人称「咲」とか聞いたことない。
小説講座所感
秋の間、某大学主催の小説講座を受けた。現地参加。前期まではオンライン講座だったのでちょっと面倒だったんだけど、現地に行ったことで世の中には小説を書くことを始めようとする人がいるという事実を確認できたのでよかった。参加人数(課題の提出者)は14人。年代は50代が中央値かな。男女比はほぼ一対一。当たり前だけどそれはオタク層とは全然被ってない。オタク、多分一人か二人くらいしかいなかった。オタクの老後に興味があるので面白い印象だった。テンプレートでない人生は続くんだよな。 読解 講座は主に小説を段落単位で解析しつつ、いろいろコメントを聞く形式。小説を書く時の課題として、テーマの探し方と書き方に関わるテクニックの2つがざっくりあると思う。最近勉強している小説批評は小説全体のテーマの方にスポットが当たっていることが多いので、久々にテクニックについていろいろ考える機会があってよかった。でも一個一個のテクニックを全部引き出しとするのは難しそう。まぁ実際に書く時に使うか、自分で読解していかないと頭に残らないよなぁ。網羅的に掲載されている大辞典でもあればいいのに。前に紹介した本の中だと小説の技巧がそんな感じかな。テクニックじゃなくてテーマに寄ってる気がするけど、網羅的という意味では感情類語辞典も近いのかなと思う。それで感情類語辞典を改めてぱらぱらめくって見てみたんだけど、じゃあこれがすぐ外部装置的な引き出しとなるのかというとそういう気もしなくて、小説の書き方を人に教えようとする難しさを感じた。講座を受けていると読む本が供給されるのもよかったな。紹介される小説の既読率がちょうどいい感じにプライドをくすぐりましたことをここに告白させていただきます。ラッタウット・ラープチャルーンサップの「観光」、読んだことあるわ。島田雅彦、向田邦子、保坂和志←とりあえず1ポイント入れた川上弘美「神様」、スティーブン・キング「書くことについて」←読んだ村上龍「コインロッカー・ベイビーズ」、春樹「騎士団長殺し」←積んだ 添削 これね。記事これ。 講義も良かったんだけどでも全6回の中で1.2回分使って添削の講義があって、これが本当によかった。これだけのためにも受けてよかったな。結局書いていくことでしか小説の書き方を覚えることってできなさそ。書くことへの刺激を受けるという点では週一で講義を受けたのもよかった。そのままのやる気で書けたらよかったが、まぁ秋は漫画も描いていたのでね……。人に読んでペンを入れてもらうことは多分同人オタク同士でもできるんだろうけど、センスと技量への信用と、人間関係が壊れないだろうという信頼が必要そう。実験的にやってみたくはあるので信用と信頼があるオタクは声をかけてください。